日々翻訳

出版&映像翻訳者・川岸 史の仕事情報を掲載するページ。ドイツ語と英語の翻訳をしています。

「人生最後の食事」

人生最後の食事

 

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「人生最後の食事」

シンコーミュージック・エンタテイメント (2011/7/21)

 

初めての訳書です。

 

私はもともと映像翻訳の仕事をしていたのですが、ひょんなことから出版翻訳もやりたいと思うようになり、翻訳者オーディションに応募して合格し、この本を訳すことになりました。

 

原書はドイツ語です。

 

ドイツ語→日本語の案件だったからこそ、オーディションに応募した人自体の数も英語案件に比べれば少なかったのだと思います。もしこれが英語案件だったら、出版では一冊も実績のなかった当時の私では選ばれてなかったかもしれません。そのくらい英語案件では応募者が増えます。それに比べるとフランス語やドイツ語の案件は応募者が10分の1とか、もっと少ないかもしれません。

 

でも、原書を読んだ時点で、私は何か運命のようなものを感じていました。

 

私は中学生のときに父を亡くしているのですが、そのとき以来抱いている死生観と、この原書で書かれているそれが非常によく似ていたのです。

 

だからきっとこの原書を最良の形で訳すことができるのは応募者の中では私だけだ、そう思い、絶対に選ばれたいという強い決意を胸に、何度も推敲しました。また何度も縦書き印刷をして、実際に書籍になったときにきちんと商品価値のあるものになっているかどうかを確かめ、そうしてできた訳文で応募しました。

 

私はそのとき映像ではいくつか実績がありましたが、出版では一冊も実績がなく、スクールで学んだり自主勉強をしている状態のアマチュアでした。しかし実際に選ばれたらもうその時点でプロになるのですから、商品として通用する訳文を納品しないといけません。

 

そのために、訳者に選出されてからは、原書をよりしっかりと読みこみ、これを伝えるにはどういった言葉が適切かをよく考えながら作業を進めました。

 

そうして無事刊行された本書は新聞や週刊誌、雑誌の書評で取り上げられ、当時好きでよく通っていた池袋リブロではタワーの平積み付きの特設ブースが設けられ、週間売り上げ8位になっていました。

 

初訳書では出来過ぎともいえるくらいでしたが、「ちゃんと自分のすべきことをやり通せたんだ」と思えたこと、それが一番嬉しかったです。

 

 

 

私は今までずっと、翻訳者は黒子だからでしゃばってはいけない、訳書を我物のように語ってはいけないと思っていました。だから雑誌や新聞のインタビュー以外の場、とくにインターネット上などではブログやSNSを開設してそこで訳書について語るということを自分に禁じていました。

 

でも、越前敏弥先生の著書や、中村有希さんのホームページを読んで、少しずつその考えが変わりました。

 

今は翻訳物の出版点数が減っているから、訳者も一緒になって少しでも売上が上がるように宣伝しないといけないと、越前敏弥先生は著書の中で書いておられましたし、中村有希さんは翻訳者を目指す人たちのためにホームページの中でいろんなことを語っておられます。

 

そういうものを読んでいるうちに、ああ時代は変わりつつあるんだ、訳者が訳書について語るのは悪いことではないんだと思うようになり、そういう経緯もあってこのブログを開設することにしました。

 

ここにある記事が、翻訳者を目指して勉強している人たちのヒントになったり、記事を読んで訳書を読んでみようと思う人が一人でもいてくだされば、こんなに嬉しいことはありません。

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(anan2016年 6月15日号より。本書を紹介して頂きました。フリー記事ではないので文字部分は読めないように撮っています)(その他、週刊文春北國新聞、南九州新聞、琉球新報などの書評に取り上げて頂きました)