日々翻訳

出版&映像翻訳者・川岸 史の仕事情報を掲載するページ。ドイツ語と英語の翻訳をしています。

トライアルに合格する方法

以前、キネコ映画祭のパーティーで知り合った翻訳者さんと話をしているときに、「トライアル(翻訳会社に正式に翻訳者として登録してもらうためのテスト)に合格するコツって何ですかね?」と聞かれました。

 

その場では思いつかず、「えー、何だろう? 私も知りたい!」としか答えられなかったのですが、あれから自分なりに考えて、答えを見つけました。

 

「締切時間のぎりぎりまで見直す」

 

これに尽きるのではないかと思います。

 

人はうっかりミスをする生きものです。

 

どんなに頑張ってミスがない状態にしようと思っても、どうしたって勘違いなどが起きてしまう。

 

本来、翻訳者にとってミスや誤訳は厳禁であり、たとえば数字の換算や単位、桁を間違えてしまって、チェッカーにも見過ごされてそのまま通って商品化されてしまうと、場合によってはその後出入り禁止とか、その後一切仕事が来なくなるとかもあります。

 

だからそういったことがないように必死で目をこらして見直すわけですが、それでもゼロにするのは難しい。

 

ある大御所の翻訳家が「1ページに1カ所くらいの誤訳はあるものだよ」と仰っていたという逸話もありますし、ウルトラスペシャルな実力を持つ方々だって、誤訳がゼロなんてことはありません。

 

お仕事をするようになると、たいていチェッカーが精査するので、そこでミスや誤訳が発覚して修正するものですが、そこをすり抜けてしまうこともあります。チェッカーもやはり人間なので……(人工知能がやるようになればミスもなくなるのでしょうか、気になるところです)。

 

話を元に戻しますと、いかに日本語表現を滑らかにするか、ふさわしい表現を選ぶか、制限字数内におさめるかといったことについてはトライアルを受ける人ならば普段から勉強しているはずなので、本番ではそれを全力で発揮すればいい。自分を信じて、強気で挑むというのも大事かもしれません。ここまで頑張ってきたんだからきっとできると信じて!

 

だから勘違いやうっかりミスがないか、ふさわしい表現になっているか、時間ぎりぎりまでよく見直して、できるだけ完璧に近い訳文を送る、それに尽きるのではないかと思いました。

 

出版翻訳のトライアルやオーディションだと、縦書き印刷して確かめるというものお勧めです(これは以前何かの記事でも書きましたが)。

 

縦書きで印刷して、実際に書籍になったときにどう見えるか、自分が読者として書店や図書館でこの文章を見たらどう思うか、「この文章、何を言ってるかよく分からないな」とならないかどうかを想像してみる。

 

そのさい、客観的に見るために少し寝かせた方がいいので、なるべく早めに作業を進めておくと尚良いと思います。

スゴ腕!RC模型ビルダー

www.happyon.jp


「スゴ腕!RC模型ビルダー 」

(シーズン3/第一話)

2月1日

@スカパー/ディスカバリーチャンネル

22:00~

原音はドイツ語。

吹替(ボイスオーバー)翻訳を担当しました。

 



JRA賞授賞式

29日はJRA賞の授賞式でした。

 

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(広報の方から写真のデータを頂きました)

 

 

馬事文化賞の表彰はトップバッターだったので、とても緊張しましたが、自分の番が終わってからはもうほっとして、ずーっとにこにこしながら授賞式の模様を見ていました。

 

何しろ翻訳の仕事というのはとても地味なもので、こんな華やかな場に招かれることはめったにありません(ほんとうに、毎日ひっつめ髪で机にかじりついている感じなのです)。

 

それでも、選考委員の皆様が優しい方々ばかりで、きめこまやかな日本語で良かっただとか、満場一致でこの本に決まったのだとか、優しい言葉をたくさんかけていただいて、思わず泣きそうになってしまいました。

 

この嬉しい気持ちを大事にしつつ、また気を引き締め、粛々とやっていかなければと思っております。 

腹ぺこフィルのグルメ旅

 

www.netflix.com

 

Netflixにて配信中。

シーズン1の4話と6話の吹替(ボイスオーバー)翻訳を担当しました。

「2017年度JRA賞馬事文化賞」

昨年に上梓した訳書「世界で一番美しい馬の図鑑」が、

「2017年度JRA賞馬事文化賞」を受賞しました。

「2017年度JRA賞馬事文化賞」が決定! JRA

 ヤフーニュースにも初めて載りました。

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とても嬉しいのですが、なんだか実感がありません。

ふわふわしているというか……。

それに、そもそもの著者はタムシン・ピッケラル氏とアストリッド・ハリソン氏。

私はただ翻訳しただけなので、ここで大手柄でも立てたかのように何か言うのは無粋ですよね。

 

それでも、馬事文化の発展にほんの少しでも貢献できていたなら、こんなに嬉しいことはありません。

 

 

 

通訳翻訳ジャーナル2018年1月号

通訳翻訳ジャーナル 2018年1月号

コラム連載第三回目が掲載されました。

 

今回は、字幕と吹替の、表現の違いについて書きました。

 

担当編集者様から「今までで一番良い原稿ですね」と言ってもらえた回なので、書店にお立ち寄りの際は、ぱらっと立ち読みでもしてくださると嬉しいです。

 

ドイツ語を選んだ理由

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なぜドイツ語を勉強したのかと聞かれることがときどきあります。

 

私の通っていた女子校では一年次にフランス語が必修であったので、とくに高校時代の友達はその後もフランス語を勉強することが多く、独文科を選んだ私は「なぜ?」と疑問を持たれることがとても多かった。

 

たしかにフランス語の方が圧倒的に美しい響きを持っているし(ドイツ語は馬と軍人の言葉とも呼ばれる)、フランス文化も素敵だし、普通の女の子なら独文科よりは仏文科を選ぶだろう。

 

でも私には、独文科を選んだ理由が明確にありました。

 

高二のときに、マレーネ・ディートリッヒの映画を観て彼女に惚れこんだため、大学では彼女について研究したいと思ったからです。

 

間諜X27』という映画で、間諜に向いてるかどうか試される場面でディートリッヒはこう言います。

「生きることは怖くないわ。死ぬことも」

 

私はこのシーンを見た瞬間、雷に打たれたような気持ちになりました。

 

こういう場面では「死ぬことなんて怖くないわ」というのがセオリー。「生きることは怖くないわ」と言って、そのあとから付け足すように「死ぬことも」なんて、そんなことを言ってのける人を見たのは初めてだったからです。

 

でもそのとき初めて気がついたのですが、私は当時、生きるのが怖かった。

 

ところがスクリーンに映る彼女は自分の思う通りに動き、何者をも恐れない。

生きたいように生き、あっさりと死んでいく。

そんな彼女が、ものすごく格好良く見えました。

 

映画の台詞に感動したのだから、監督か脚本家に感謝すべきですが、何しろ彼女が言ったことに説得力がありました。だから彼女の存在が私の胸をぐっと掴んだのです。

 

その後彼女の私生活について調べてみると、とにかく自由奔放に動き、また愛のために生きた人なんだということがよく分かった。自分に自信があって、やりたいように生きた人なんだなあ、と思いました。

そのせいで周りが迷惑することも多々あったと、娘のマリア・ライヴァは書いていますが、私はそれを読んでなんだかほっとする部分もありました。

 

その後大学に入りドイツ語の勉強を始めてみると、ドイツ語自体が厳格で合理的だということが分かりました。そしてそれはまったくドイツ人の性質を反映しているように思えました。

文法が難しいといわれますが、裏を返せばそのルールさえ踏まえていれば読み間違えることはない、ということ。だからかえって英語の方が、例外が多くて、どういう意味なのか捉えるのが難しかったりする(同じ言葉でも文脈によって意味が違ったりする)。でもドイツ語ではそういうことはあまりありません。

そういう性質も、自分に合っていたような気がします。